【創造的思考】シックスハット思考法「6つの帽子思考法‐視点を変えると会議も変わる」(エドワード・デボノ)
水平思考(Lateral Thinking)の生みの親、エドワード・デボノ博士が提唱した「6色ハット思考法」(Six thinking hats)について紹介します。
尚、今回の記事は、デボノ博士の著書「6つの帽子思考法‐視点を変えると会議も変わる」(パンローリング社)の内容を中心に、周辺情報、個人的感想等も少し加えています。
もくじ(CONTENTS)
エドワード・デボノ博士について
シックスハット思考法を紹介する前に、生みの親エドワード・デボノ博士について簡単に紹介しておきましょう。
【デボノ博士の故郷・マルタ島】
デボノ博士は、1933年5月19日、イタリア・シチリア島の南にあるマルタ島(現在のマルタ共和国)で生まれました。
マルタ共和国は、地中海に浮かぶ小さな島国で、人口はおよそ50万人、面積は316㎢、東京都23区の約半分の大きさしかないミニ国家です。
主要な産業は、「観光産業」。国内にはユネスコの世界遺産リストに登録された3つの文化遺産があります。
- ハル・サフリエニの地下墳墓
- バレッタ市街
- マルタの巨石神殿群
【デボノ博士の経歴】
その後、彼は世界最古の国際的奨学金制度、ローズ奨学生に選ばれてイギリスのオックスフォード大学クライスト・チャーチ・カレッジで学び、その後ケンブリッジ大学、マルタ大学で医学博士号を取得しました。
そして1967年、デボノ博士は「水平思考(Lateral thinking)」という考え方を考案しました。
【水平思考(ラテラル・シンキング)とは】
「水平思考」という言葉について、デボノ博士は、
「簡単で自然な創造的思考法を通じて、新たなアイデアを生み出すように脳を仕向けることができることを強調したくて使った造語」
であると語っています。
そして、彼は世の中に既に深く浸透している論理的思考法(垂直思考)とは全く異質かつ正反対の思考法であると断言しています。
現在では、水平思考の考えを採り入れた各種フレームワークや、「ウミガメのスープ」等、水平思考パズルゲームの書籍等も数多く出版されています。
水平思考の考え方は、多くの人々に親しまれています。
【その後のデボノ博士】
「水平思考」という考え方を発表して以来、彼の名は世界中に広まりました。
その後、世界的な大企業、多国籍企業でコンサルタント業務を行っています。
そして、彼の創造的思考法に関する教育手法は、IBM、デュポン、シェル石油、エリクソン、マッキンゼー等、世界中の大企業で採り入れられています。
正しくデボノ博士は、創造的思考法の世界的権威であり、現在も世界中で、博士の思考法が実践・研究されています。
今回ご紹介する「シックスハット思考法」は、1985年にデボノ博士が発表しました。
それでは、彼の著書「6つの帽子思考法(Six Thinking Hats)」を紐解きながら、ご紹介していきましょう。
シックスハット思考法とは?
意図的に思考を切り替え、多様な視点からモノを見ることにとって、個人が陥りやすい思考のパターンから脱却するための思考法。
6つの思考をそれぞれの色(白・赤・黒・黄・緑・青)のついた帽子で分類することから「シックス(6色)ハット思考法」と呼ばれています。
シックスハット思考法の実績・成果
シックスハット思考法は、すでに多くの企業や組織で採用され、大きな実績をあげています。
具体的な例を紹介しますと…
- ある大企業では、それまで30日掛かっていた多国籍会議が、わずか2日で済むようになった。
- IBM研究所出身の研究者は、これまでの会議時間が4分の1に短縮されたと報告
- 300人の幹部公務員を対象とした実験では、創造的なアイデアが約5倍(493%)に増加した
- 陪審員が採決するまで3時間以上かかっていた裁判が、15分に短縮された…等
この様に、シックスハット思考法が目覚ましい成果をもたらしてくれる理由は、次に紹介する4つのメリットによると言われています。
シックスハット思考法:4つのメリット
シックスハット思考法を「正しく使う」ことによって、以下の4つのメリットを享受することができます。
メリット1:結集する力
全員が同じ視点に立ち、同じ方向に持てる力を結集することによって、グループ全員の知性や経験・知識等をフルに活用できるようになる。
メリット2:時間の短縮
意見が対立した場合でも、互いに平行した考えから生み出されたものと考えるため、都度、議論することなく結論まで導くことができ、時間の短縮が図られる。
メリット3:エゴの排除
互いに対抗し敵対関係にある思考は、エゴの問題を悪化させることが多いが、帽子をかぶって演じることで、自分のエゴを上手に表に出すことができる。
メリット4:一度にひとつの事をする
人間は、一度にあらゆる側面を考えようとするが、実際は同時に異なる方法に対し脳を敏感に働かせることはできない。しかし帽子を使えば、まずは一つの思考に集中できるようになる。
シックスハット思考法の使い方
6つの帽子は、基本2つの使い方があります。ひとつは、考え方のタイプを要求するために帽子を使う方法、もう一つは、テーマを掘り下げ、問題を解決するために帽子を順番に使う方法です。
使い方その1:単独で使う
単独で使う場合、帽子は特定の考え方を要求するためのシンボルとして使われます。例えば、会議や討論の途中で…
- 「この辺で、私たちには緑の帽子の考え方が必要だと思います」
- 「たぶん、この場合には黒い帽子をかぶるべきだと思うのですが…」等
このようにシンボルとして帽子を使うのには、大きな意味があります。帽子の色を指定することにより、あいまいな要求ではなく、特定の思考モードを明確に要求できるからです。
使い方その2:順番に使う
複数の帽子を順番に使うこともできます。順番に使う場合は、さらに「事前に順番を設定しておく方法」と「その場の状況に応じて決めていく方法」の2つの使い方があります。
ただし後者の、「その場に応じて決めていく方法は」は、メンバーがシックスハット思考法を十分に使い慣れていない場合は、オススメできません。
その理由は、
- 理由1:メンバーが次にどの帽子を選ぶかを議論するのに時間を使いすぎるから
- 理由2:自分の望む結果を得るために、誘導していると思われる恐れがあるから
したがって、6色帽子を使い慣れていないチームは、まずは「事前に順番を設定しておく方法がオススメです。
また、6つの帽子を使いこなすためには、チームの全員で「訓練」することが重要であるとデノボ博士は述べています。
6色それぞれの帽子の考え方
それでは次に、「白・赤・黒・黄・緑・青」それぞれの色の思考について、簡単に紹介しましょう。
1:白の帽子(客観的思考)
データを入力すると、情報や数値を即時に弾くコンピューター、それは公平で客観的です。白い帽子をかぶる時、人はコンピューターを真似る必要があります。
しかし、情報には2つのレベルがあります。
- 第1レベル「既に真偽が確認された事実」
- 第2レベル「真偽が確認されていない事実」
さらに第2レベルには、「ほとんど真実」というものから「真実とはいいがたい」ものまで、様々な段階があります。
第2レベルの曖昧な情報を示すことが、状況において適切と考えられるなら、白い帽子をかぶって、この種の情報を相手に伝えることもできます。
白い帽子をかぶって考えることは、一種の訓練です。より公平で客観的であるように努力しましょう。
2:赤の帽子(直感的思考)
赤い帽子をかぶる時、あなたは何の説明もいらず、それを正当化する必要もありません。あなたの「感情」や「情緒」「直感」等を素直に表現する機会を与えてくれます。
「その問題について私は、このような感情を抱いています」
<具体例>
「このアイデアはとても魅力的だと感じる」
「この企画は受け入れられない気がする」
このように自信をもって素直に感情を表すことができます。
ただし。赤い帽子は、常に「特定のアイデアや状況」に対して用いられます。そのためアイデアを変えることは許されません。
「義務的な寄付について、あなたの赤い帽子の考えを聞かせて下さい」と意見を求められた場合、
「もし、その寄付がボランティアなら、その考えに賛成です」等と答えることは許されません。
3:黒の帽子(批判的思考)
黒い帽子は、6つの帽子の中で、一番よく使われる重要な帽子です。
黒い帽子は、「警戒」の帽子です。「不法な行為」「危険な行為」「不利益な行為」「堕落した行為」等を止める役割があります。
また黒い帽子は、考える過程で生じる誤りを指摘することもできます。
しかし、黒い帽子の使いすぎには注意しましょう。
建設的な意見よりも批判的な意見を述べる法がずっと簡単です。
例えば、椅子をデザインするのは難しいですが、あれこれ批判することはやさしいことです。
簡素なデザインの椅子に対しては、
→「時代遅れだ」「シンプルすぎる」
逆に凝ったデザインの椅子に対しては
→「趣味が悪い」「仰々しい」
使いすぎることは、役に立たないどころか、利己主義を助長することにもなりかねません。
「黒い帽子」の目的は「アイデアを潰すコト」ではなく「アイデアの中に、注意すべき点を書き込む」ことなのです。
4:黄の帽子(肯定的思考)
黄色い帽子は、「積極的」で「建設的」です。
黄色は太陽の輝き、明るさ。楽観主義を象徴しています。
黒い帽子が否定的な評価をするのに対し、黄色い帽子は、肯定的な評価をします。
この肯定的な考え方は、理論的で実用的な考え方から、夢や将来の展望・希望等、幅広い範囲にまたがっています。
黄色い帽子で考えることは、「利益」や「利点」を探し出し、それに「価値」を見い出すことです。
そしてそのことによって「チャンス(好機)」を捉えることができるようになります。
5:緑の帽子(創造的思考)
緑の帽子をかぶる人は、「創造的な思考パターン」を活用する。
そして周囲の人たちも、そこから生まれたアイデアを創造的な考えを扱う必要がある。
緑の帽子の基本的な視点は、「選択肢」を探求することです。
自分が知っている世界の向こう側にある世界に目を向けましょう。
また「分別」や「判断」という概念の代わりに「ムーブメント」の概念に置きかえて考える必要があります。
要するに、考える人は新しいアイデアに到達するまで、あれこれ思考パターンを移動させる必要があります。
6:青の帽子(過程的思考)
頭上に拡がる青い空、「全体像」を連想して欲しい。
青い帽子は、オーケストラの指揮者の様なもの。他の人たちに次は何色の帽子をかぶるのかを指揮する。
また考えるプロセス(過程)を前に進めるために、様々なテーマを作り上げる。
すなわち、「問題点を取り上げ」「疑問を投げかけ」「課題を見定め」、それを解決するための「考え方を提案する」のです。
そして、考え方そのものを調整し、ゲームのルールが守られているかを確認する。
時には、議論をストップし、「今回の行程」をみんなに知らせたりする。
青い帽子は、そんな全体を調整するための帽子です。
おわりに…
以上、6つの帽子、各色の考え方について、概要を簡単に紹介しました。
最後に、クラスやチームでシックスハットを行う際の留意点について、ふれておきます。
まず、一番留意すべき点は
メンバー全員がシックスハット思考法について理解している
ということです。
野球のルールをしらないのに、野球をプレイすることはできません。
シックスハット思考法も同様です。
6色それぞれの思考法について知らなければ、運用できるはずがありません。
そのため、チームや組織で運用するには、勉強会を開き、トレーニングを行いましょう。
「ブレインストーミング」等と違い、その場でやり方を説明して、実施できるほど、「6色の帽子」は甘くありません。
また、多くの書籍やサイトで「シックスハット思考法」が紹介されていますが、理解が浅く誤った形で紹介されているものも散見されます。
まずはデボノ博士自身が著した本著を熟読されることをお勧めします。
ちなみに本記事も、あくまでも概要をさらっと紹介しているにすぎません。
そのため、紹介しきれていない部分が数多くあります。
また組織での導入を検討の方は、デノボ博士の公式サイトを参照されるのもよいでしょう。
今回も最後まで御覧頂き、ありがとうございました。
<追記>
他の思考法にも興味をお持ちの方は、こちらの記事もご覧ください。